2018年秋、注目の『エリザベート』でのトート役の月組トップスター・珠城りょうさんにお話をうかがいました。
10月4日生まれ、愛知県蒲郡市出身。身長172cm。初舞台:2008年3月『ME AND MY GIRL』。
2013年宝塚バウホール公演『月雲の皇子』で初主演。2016年9月、月組トップスターに就任。2017年『グランドホテル』で大劇場お披露目。
◆常に色んな役に染まれる状態でいたい
――春の月組公演『カンパニー』『BADDY』の二本立てはとても印象的でした。特に『BADDY』は新しいタイプのショーで、お客さまからも様々な反響があったと思います。あの作品を乗り越えた今、思うことは?
作品がお客さまに受け入れてもらえるかが一番の挑戦でしたから、それだけのものを月組生で作り上げられたことは、みんなの自信に繋がりました。また、「宝塚歌劇には枠にとらわれない作品も受け入れてくださるお客様がたくさんいらっしゃるのだ」ということを、発見できました。それは、この先も新しいものに挑戦できるという期待にもつながると思います。
――『BADDY』にしても『カンパニー』の青柳誠二さんにしても、珠城さんはとても挑戦的な役どころに巡り合うことが多いような気がします。
いわゆる宝塚歌劇の主人公らしからぬ役も演じさせて頂いています。私自身、演出家のインスピレーションを掻き立てる役者でいたいという思いは常にあるので、主演という立場になってからもそういう役を与えていただけるのは、とても嬉しいです。役者冥利に尽きます。
――インスピレーションを掻き立てられる存在でいるために、何か意識されていることはあるのですか?
私は一見、「個性が薄い」と思われるタイプかもしれません。でも、自分の個性を決めてしまうのではなく、逆に私は、常に色んな役に染まれる状態でありたい。「役として舞台に存在したい」という思いが強く、そういう時に芸名の自分を絶対に出したくないんです。もしかしたら私はトップスターとしては珍しいタイプかもしれません。でも、自分の役者としてのあり方は変えたくないという強いプライドだけは、下級生の頃からずっと持ってやってきました。
――「芝居の月組」 という伝統についても意識されていることはありますか?
私だけではなく月組の上級生の皆さんが「芝居の月組」と言っていただけることにプライドをお持ちです。それは歴代の諸先輩方が積み上げてこられたものによってできあがった伝統であり、「それにあぐらをかいてはいけない」と。現状に甘んじず、もっと追求していこうという思いで日々作品を作り上げているので、それがお客さまに伝わったら嬉しいですね。
――それが『エリザベート』再演でも発揮されるのではないかということも期待しています。最近は東宝版をご覧になっている方も多く、人気がありますが、役作りの際に東宝版やウィーン版は意識されますか?
男性キャストのエネルギーや振り幅、力強さは盗めるところもありそうです。宝塚歌劇の諸先輩方が作り上げてこられた物を大事にしつつ、ウィーン版や東宝版の方々の醸し出す雰囲気も、うまく取り入れられればと思っています。
◆どこかで身近に感じてもらえる存在でありたい
――2016年に『アーサー王伝説』でトップスターになられてから3年目を迎えられましたが、目指す男役の理想像に変化はありましたか? 今のステージで目指されていることは?
「相手役を素敵に見せる男役でありたい」とか「情熱的な男役でありたい」といった思いはもちろんベーシックにあるべきものですが、それと同時に、お客さまを惹きつける魅力を役の中で打ち出していきたいですね。 それは男役として目指すこととはまた違うのかもしれませんが、お客さまを作品の世界観に引き込む力をもっと磨いていきたいです。
――それは、先ほどの話の流れからすると遠回りな感じもします。「珠城りょう」というスターのキャラクターを確立してしまうほうが手っ取り早いはずなのに、敢えてその道は選ばない…。
そうなんですよね。 でも、やっぱり自分を偽りたくないんです。語弊があるかもしれませんが、より「普通」でありたい。組の中でも手の届かない雲の上の存在ではなくて、 心の距離感は近い存在でありたいし、お客さまにも、どこかで身近に感じてもらえる存在でありたいと思いながら、この2年を過ごしてきました。『カンパニー』の青柳さんも、宝塚という夢の世界の話だけど、「もしかしたら職場にもこういう人がいるかもしれない」と思ってもらえて、現実の世界に戻った後も夢を見ていただけるようにと考えながら役作りをしました。
それがある意味、私の個性かもしれません。『カンパニー』を他の組の上級生の方が観に来られた時にも 「これはりょう君だからできる役だね。 他の人ではできない」と言っていただいたことがあって、「私の個性、これなのか…」と、ちょっと面白く感じましたね(笑)。
◆組のみんなとしっかりコミュニケーションを取りたい
――トップスターになられてからの「TO DO」と「NOT TO DO」、「すると決めていること」と「しないと決めていること」は何でしょう?
「決めている」とはちょっと違うかもしれませんが、組のみんなとしっかりコミュニケーションを取るようにしたいと思っています。周りにきちんと目を配る、気になる下級生がいたらちょっと声をかける。そういうことは大事にしています。とくに下級生に対して何か気づいたことを注意しなければいけないときは、必ず自分の言葉で伝えるようにしています。
しないと決めていることは、マイナスの発言。当たり前のことですが、稽古場で「大変」とか「疲れた」などの言葉は言いません。でも、みんな心のどこかで思っていることですし、自分にある種の“スキ”がないと心の距離感も縮まっていかないので、自然に本音を出すことはあります。
普段の居方も人に対する接し方も、トップになる前となってからとで変わらないので、 きっと組のみんなはわかってくれていると思います。
◆宝塚歌劇は「主要キャスト以外」も見どころ
――貸切公演は初めてのお客さまも多いですし、最近は男性のお客さまも増えていて、青柳さんに共感された男性ファンの方もたくさんいらっしゃると思います。そういった皆さんにぜひ見ていただきたいポイントは?
まず、主要キャスト以外も見どころです。後ろの隅の方にいる下級生であっても一人ひとりが一生懸命考えながら役を作り上げている姿を見ていただきたいです。あとはやはり宝塚歌劇の伝統とされているラインダンス。そして主題歌。何か好きな曲を見つけて、 口ずさみながら帰っていただけたら嬉しいです。本当に見どころ満載なので、 いろいろなところをお楽しみ頂ければと思います。
撮影・谷内寿隆
文・中本千晶(なかもと ちあき)
<プロフィール>
1967年兵庫県生まれ、山口県周南市育ち。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。
舞台芸術、とりわけ宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。
主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇は「愛」をどう描いてきたか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)。早稲田大学非常勤講師、NHK文化センター講師。
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